目次
・空気抵抗
・空気抵抗と速度
・空気抵抗と斜方投射
・斜方投射の実験
ナユミ
……たまには雨の日に歩いてお出かけするのもいいわね。
カヤ
そうだな。雨の日は人通りも少なくて、街が静かで好きだな。
ナユミ
傘に当たる雨粒の音もいいわよね。
カヤ
そうだな。これも空気抵抗のおかげだな。
ナユミ
…空気抵抗?
カヤ
そうだぞ。空気抵抗がなかったら、ナユ姉はもう全身ハチの巣になってるだろうな。
ナユミ
ひえ…、ちょっと、怖いこと言わないでよ。どういうことなの?
カヤ
よし、じゃあ帰ったら空気抵抗の話をしよう。
空気抵抗
地球の表面には空気があるため、地表面付近での物体の運動を考える場合は、空気抵抗を考慮しないとうまくいかないことがあります。
空気抵抗がない場合、雨が地表面に到達したときに非常に大きな速度になることを理解するために、まずは自由落下の運動方程式を考えてみます。
\[ 自由落下の運動方程式\]
\[ -mg = m \frac{dv}{dt}\]
\( m \) :物体の質量 (正の実定数)、\( g \) :重力加速度、\( v \) :物体の速度、\( t \) :時刻
これは空気抵抗を無視した斜方投射のy方向の運動方程式と同じものです。
この式を1回 \( t \) で積分して \( v \) を求め、その後 \( v = \frac{dy}{dt} \) とおいてからもう1回 \( t \) で積分して \( y \) を求めてみます。
\[ \begin{align}
-mg &= m \frac{dv}{dt} \\\\
-g &= \frac{dv}{dt} \\\\
- \int _0 ^{t} g dt &= \int _{0} ^v dv \\\\
-gt &= v
\end{align}\]
ここで、\( v = \frac{dy}{dt} \) とおくと、
\[ \begin{align}
-gt &= \frac{dy}{dt} \\\\
-g \int _0 ^{t} t dt &= \int _{y_0} ^y \frac{dy}{dt} \\\\
- \frac{1}{2} g t^2 &= y - y_0 \\\\
y_0 - \frac{1}{2} g t^2 &= y
\end{align}\]
これらの式を使って、空気抵抗がなかったとしたら、雨雲から降ってきた雨が地上に到達するときにはどのくらいの速度になっているのか計算してみます。
雨雲の高さはおよそ 500m-2000m なので、雨雲の高さを表す \( y_0 \) は平均を取って 1250m とします。
また、重力加速度 \( g \) の値は 9.8 m/s2 とします。これらを \( y(t) \) の式に代入して、\( y = 0 \) とおけば、雨粒が雨雲から地上に落ちてくるまでにかかる時間が求まります。
\[ \begin{align}
y_0 - \frac{1}{2} g t^2 &= y \\\\
1250 - \frac{1}{2} \cdot 9.8 t^2 &= 0 \\\\
t^2 &= \frac{1250}{4.9} \\\\
t &= \sqrt{\frac{1250}{4.9}} = 15.97 \ldots \left[ \rm s \right]
\end{align}\]
これを \( v \) の式に代入すれば、地上に落ちてきたときの雨粒の速度が求まります。
\[ \begin{align}
v &= -gt \\\\
&= -9.8 \times 15.97 \\\\
&= -156.5 \left[ \rm m/ s \right] \\\\
&= -563 \left[ \rm km/ hr \right]
\end{align}\]
ナユミ
マイナスの符号は下向きに雨が降ってくるからね。それにしても、時速563kmは速すぎね。
カヤ
ああ、だいたい新幹線のトップスピードの2倍弱くらいの速さだな。雨粒の大きさは直径1mm前後だから、小さめのビーズがこの速度で大量に頭上から叩きつけてくることを想像してみるといいぞ。
ナユミ
そりゃあハチの巣にもなるわね…。
カヤ
そうだろう。けど、当然ながら実際の雨粒の速度はこんなに大きくない。速くても時速30km程度だ。
ナユミ
当たってもちょっと痛いかなってぐらいね。そのくらいの速度に留まってるのが空気抵抗のおかげなのね。
カヤ
そういうことだな。じゃあ次は、この空気抵抗と速度の関係を運動方程式に組み込んでみよう。
空気抵抗と速度
空気抵抗を数式で表現するのは非常に難しい問題です。
ですが、多くの場合、空気抵抗は速度に比例する「粘性抵抗」と、速度の2乗に比例する「慣性抵抗」の2種類を考えると実測値を上手く表現できることが経験的に知られています。
これらを先ほどの自由落下の運動方程式に組み込むと次のようになります。
\[ 空気抵抗込みの自由落下\]
\[ -mg - pv + qv^2 = m \frac{dv}{dt}\]
\( m \) :物体の質量 (正の実定数)、\( g \) :重力加速度、\( v \) :物体の速度、\( t \) :時刻、\( p \) :粘性抵抗の係数 (正の実定数)、\( q \) :慣性抵抗の係数 (正の実定数)
空気抵抗は常に物体の運動方向と逆向きに働きます。
自由落下では物体は常に下向きに運動しているため \( v \leq 0 \) です。
この場合に物体の運動方向と逆向きの力というのはプラス方向の力になるため、
粘性抵抗は速度 \( v \leq 0 \) であることに注意してマイナスの符号を、
慣性抵抗は \( v^2 \geq 0 \) だからプラスの符号をつけてあります。
空気抵抗は速度が増加するにつれて大きくなるため、あるところで重力加速度の項と釣り合うことが予想されます。
このとき、この運動方程式は全体として0に等しくなるため、次が成り立ちます。
\[ -mg - pv + qv^2 = 0\]
この式を \( v \) について解いてみます。
\[ \begin{align}
-mg - pv + qv^2 &= 0 \\\\
qv^2 - pv &= mg \\\\
v^2 - \frac{p}{q}v &= \frac{mg}{q} \\\\
\left( v - \frac{p}{2q} \right) ^2 - \frac{p^2}{4q^2} &= \frac{mg}{q} \\\\
\left( v - \frac{p}{2q} \right) ^2 &= \frac{mg}{q} + \frac{p^2}{4q^2} \\\\
v - \frac{p}{2q} &= \pm \sqrt{\frac{mg}{q} + \frac{p^2}{4q^2}} \\\\
v &= \frac{p}{2q} \pm \sqrt{\frac{mg}{q} + \frac{p^2}{4q^2}}
\end{align}\]
\( v \leq 0 \) だから、
\[ v = \frac{p}{2q} - \sqrt{\frac{mg}{q} + \frac{p^2}{4q^2}} \]
ここで求めた \( v \) は終端速度と呼ばれています。
終端速度の式を見ると、物体の質量 \( m \) が大きくなるほど、終端速度の絶対値も大きくなることがわかります。
これが、日常的な感覚である「重いものほど速く落ちる」ということの運動方程式における表現となっています。
つまり、重いものほど速く落ちるのは空気抵抗が原因であり、真空中では重さに関係なく落ちる速度は同じ(自由落下)になります。
ナユミ
自由落下の式って、実は現実にはあまりお目にかかれない現象を表しているのね。
カヤ
そういうことだな。じゃあ次は、空気抵抗があるときの斜方投射について考えてみよう。
空気抵抗と斜方投射
斜方投射の水平方向の到達距離は空気抵抗がないときは斜め45°で最長になりますが、空気抵抗があるときはそうとは限りません。今回はその点について確かめてみます。
物体の質量を定数とすれば、空気による粘性抵抗と慣性抵抗があるときの斜方投射の式は次のようになる。
\[ 斜方投射(空気抵抗あり)\]
\[ \begin{align}
-pv_x -qv_x ^2 &= m \frac{dv_x}{dt} \\\\
-mg -pv_y -qv_y |v_y| &= m \frac{dv_y}{dt}
\end{align}\]
物体に働く力は \( x \) 軸方向は空気抵抗だけ、\( y \) 軸方向は重力と空気抵抗です。
\( x \) 軸方向については、物体は1方向にしか進まないため、進行方向を正の向きとすれば常に \( v_x \geq 0 \) となるため、
慣性抵抗は上の式で表せます。
\( y \) 軸方向の慣性抵抗については、物体が上昇するときは下向きの空気抵抗が働き、下降するときは上向きの空気抵抗が働くため、これらを一つの式で表すために絶対値を使っています。
物体が上昇するときは \( v_y \gt 0 \) だから \( -q v_y |v_y| \lt 0\) で下向きの慣性抵抗、下降するときは \( v_y \lt 0 \) だから \( -q v_y |v_y| \gt 0 \) で上向きの慣性抵抗になります。
これらの微分方程式は \( x \) 軸方向については普通に解くことができ、\( y \) 軸方向についても物体が上昇するときと下降するときに分けて微分方程式を書き下せば解くことができます。
ただし、かなり煩雑な解法なので、今回は数値解法で解くことにします。
また、数値積分にはオイラー法よりも精度よく計算できる4次のルンゲ=クッタ法を使いました。
ナユミ
ルンゲ=クッタ法って聞いたことないわね。
カヤ
またそのうち解説するよ。その方法を使って投射角をいくつか変えて計算してみた結果がこれなんだ。
\( g = 980 \) 、\( v_0 = 1000 \) 、\( m = 1.5 \) 、\( p=1 \) 、\( q = 0.025 \) として、投射角 \( \theta \) を変化させて数値計算した。数値計算には4次のルンゲ=クッタ法を用いた。
ナユミ
ほう、本当に45°が一番じゃなくなってるわ。30°が一番水平方向の飛距離が長いのね。
カヤ
そうだな。ただこれも今回の計算条件だったから、としか言えない。試しに、粘性抵抗の係数 \( p \) を8倍にしてみたらこうなった。
\( g = 980 \) 、\( v_0 = 1000 \) 、\( m = 1.5 \) 、\( p=8 \) 、\( q = 0.025 \) として、投射角 \( \theta \) を変化させて数値計算した。数値計算には4次のルンゲ=クッタ法を用いた。
ナユミ
あら、今度は20°が一番遠くまで飛んだわ。
カヤ
こんな感じで空気抵抗があるときの斜方投射の水平距離は条件によってコロコロ変わるんだ。
ナユミ
物を投げてるだけだけど、意外と奥が深いのね。
カヤ
そうだな。じゃあ最後に、また斜方投射の実験をしたので見てみよう。
斜方投射の実験
ナユミ
斜方投射の実験は前にもやったけど、今回は何が違うの?
カヤ
今回は斜方投射における空気抵抗の影響を見るために、スーパーのサッカー台に備え付けられているビニール袋と輪ゴムを使って、バドミントンのシャトルのようなものを作って投げてみたぞ。
ナユミ
また手作り感満載ね。これを投げた時の様子はどんな感じ?
カヤ
投げた時の様子はこれだ、白い影が投げたシャトルだな。
ナユミ
本当、左右対称の放物線じゃないわね。
カヤ
実際に写真にしてみると空気抵抗があるのがよくわかるよな。シャトルの質量は1.42 g だったから、この値をつかってさっきのモデルを写真のデータと合わせてみよう。
赤丸が実測値、青線がモデル。モデルのパラメータは \( g = 980 \) 、\( v_0 = 1180 \) 、\( m = 1.42 \) 、\( p=2.2 \) 、\( q = 0.0265 \) 、 \( \theta = 1.19 \) とした。数値計算には4次のルンゲ=クッタ法を用いた。
ナユミ
前の斜方投射の実験ほどじゃないけど、それでもよく合ってるわね。
カヤ
そうだな。空気抵抗の成り立ちは複雑だが、それが示す現象は運動方程式に少し修正を加えるだけで再現できるというのは、なかなか面白く、見方によっては恐ろしい話だと思う。
ナユミ
面白いはわかるけど、恐ろしいはどうして?
カヤ
現象の成り立ちについては実際のところ何もわかっちゃいないのに、こうも綺麗に現象を再現できると、その現象についてもう考えなくなりがちだからだ。
ナユミ
まあ、表面上しかわかってないことなんて、生きてればいくらでもあるんじゃないかしら?
カヤ
まあ、そうなんだけどな。けど、まだ全部わかったわけじゃないって気持ちはどこかに持ち続けておいたほうがいいとは思うな。
ナユミ
疑問を持ち続けるのが大事ってことね。
カヤ
そういうことだな。
参考:
[1] Wikipedia 雨、https://ja.wikipedia.org/wiki/雨、2023年10月3日閲覧
[2] Wikipedia Projectile motion、https://en.wikipedia.org/wiki/Projectile_motion、2023年10月5日閲覧
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