目次
・放射性物質について
・放射能と放射性物質の濃度変化
・放射性同位体による年代測定
ナユミ
ねえねえ、カヤちゃん。今日ニュースで福島第一原発の処理水を海に流すって聞いたんだけど、これって大丈夫なのかな?
カヤ
ニュースを見る限りは、汚染物質の濃度も十分に低いから、人体や動植物への影響は少ないみたいだぞ。
ナユミ
そうなのね。でも、これからも処理水を流し続けたら、いつか海が汚染物質でいっぱいになっちゃったりしない?
カヤ
それは心配しなくても大丈夫だぞ。放射性物質は時間が経つにつれて分解して濃度が低くなっていくからな。このあたりの話を少ししてみようか。
放射性物質について
カヤ
まずは、放射性物質に関する用語を少し整理しておこう。
\[ 放射性物質に関する用語\]
放射線:放射性原子の崩壊により発生する、特別な呼び名がある電磁波や原子核、電子の総称。 \( \alpha \) 線はヘリウムの原子核、\( \beta \) 線は電子、\( \gamma \) 線は波長が \( 10^{-14} \ ~\ 10^{-12} \ \rm m \) の電磁波である。
放射能:放射性物質が放射線を放出する能力のこと。放射性物質に含まれる放射性原子が単位時間に崩壊する数を単位として表される。毎秒あたりに放射性原子が崩壊する数をベクレル[Bq]という単位で表す。
放射性原子:放射能を持つ原子のこと。
放射性物質:放射性原子を持つ物質のこと。
放射性原子は不安定なため、崩壊してより安定な原子になろうとします。
そのときに、放射線が一緒に出てきます。
原子は物質を構成している粒子で、原子核とその周りにある電子からなります。
そして、原子核は陽子と中性子からできています。
陽子と中性子の個数に応じて、様々な原子があります。これらを図で書くと次のようになります。
\( ^{4}_2 \rm He \) はヘリウム原子、\( ^{3}_{1} \rm H \) は福島原発の処理水にも含まれているトリチウム(三重水素)です。
\( \rm He \) はヘリウムの元素記号で、\( \rm H \) は水素の元素記号です。
元素は原子をその原子核に含まれる陽子の数で分類したもので、同じ元素でも、中性子の数が異なるものは同位体と呼びます。
同位体の中でも放射能を持つものを放射性同位体と呼びますが、これが放射性原子のことです。
例えば、天然に存在する水素には中性子数の異なる三つの同位体があり、それぞれ軽水素 \( ^{1}_{1} \rm H \) 、重水素 \( ^{2}_{1} \rm H \) 、三重水素 \( ^{3}_{1} \rm H \) と呼ばれています。
このうち、三重水素(トリチウム)は放射性同位体です。
なお、元素記号の左上にある数字は原子核に含まれる陽子と中性子の数の合計で、左下にある数字は原子核に含まれる陽子の数を表します。
ナユミ
放射能が分かれば放射性物質がどのくらいで無くなるのかわかりそうだよね。
カヤ
そういうことだな。放射能の値を使って、放射性物質の濃度変化を調べる方法を見ていこう。
放射能と放射性物質の濃度変化
ナユミ
放射能の具体的な値ってどのくらいなの?
カヤ
福島原発事故で発生した放射性同位体について、放射能を表にするとこうなるな。
放射能 [Bq] の値は、Wikipedia 放射能の比較(https://ja.wikipedia.org/wiki/放射能の比較)より引用。
表にある \( \rm E \) はE表記です。\( \rm E + \it x \) で \( \times 10^x \) を、\( \rm E - \it x \) で \( \times 10^{-x} \) をそれぞれ表します。
表の値は放射性同位体が1gピッタリあるときの放射能ですが、放射性同位体の崩壊が進んで質量が1gより小さいときは、
放射能は表の値よりも小さくなります。
放射能と放射性同位体の質量との間には次の関係式が成り立ちます。
\[ ( \rm 放射能) = (壊変定数) \times (放射性同位体の質量) \]
壊変定数は放射性同位体に固有の定数です。
放射性同位体の質量が1gのとき、壊変定数は放射能に等しいので、
先ほどの表の値は壊変定数とみなしても構いません。
放射能は放射性物質に含まれる放射性原子が単位時間に崩壊する数ですが、
これは放射性同位体の崩壊速度とも読み替えられるため、
上の関係式を次の微分方程式に書き換えることができます。
\[ \frac{dN}{dt} = - \lambda N\]
\( N \):放射性同位体の質量、\( \lambda \):壊変定数、\( t \):時刻
これはマルサスモデルの微分方程式とマイナスの符号が右辺についていることを除いて同じのため、解は次のようになります。
\[ N = N_0 e^{- \lambda t } \]
\( N_0 \):初期質量
先ほどの表の放射性同位体についてグラフを書くと下図のようになります。
ヨウ素131の崩壊は速く、1年も経てばほぼ無くなっています。
ただし、ヨウ素131が崩壊する過程で放出される放射線によりダメージを受けた生物の器官が1年経てば修復されるという意味ではないので注意してください。
環境中にばらまかれたヨウ素131という物質が1年も経てばほぼ無くなるという意味です。
一方、プルトニウム239は100年経ってもほとんど無くならないため、長期的な管理が必要になります。
放射性同位体の崩壊速度を特徴づけているのは壊変定数ですが、これを時間の指標に直したものに半減期というものがあります。
半減期は放射性同位体の質量が崩壊によって半分になるまでの時間のことです。例えば、ヨウ素131の半減期は8日、トリチウムの半減期は12.4年といった具合です。
半減期は次のように求めることができます。
半減期を \( T \) とすると、
\[ \begin{align}
\frac{N_0}{2} &= N_0 e^{- \lambda T } \\\\
\frac{1}{2} &= e^{- \lambda T } \\\\
\ln \frac{1}{2} &= - \lambda T \\\\
- \ln 2 &= - \lambda T \\\\
T &= \frac{\lambda}{\ln 2}
\end{align}\]
この式からわかるように、半減期 \( T \) は初期質量の値によらず、壊変定数 \( \lambda \) のみで決まります。
つまり、放射性同位体の種類によって半減期は決まっています。
福島第一原発の事故で大気中に放出された放射性同位体の中で比較的量の多かったセシウム137は半減期が約30年です。
放射性同位体がどこまで薄まれば気にならなくなるのかは人によって様々だと思いますが、
この「半減期が30年」という言葉がある以上、30年くらいは無視できない問題として取り扱われると思います。
実際、事故から12年が経った今でも、毎年環境省が全国の公共用水域と地下水で放射性物質のモニタリングを続けています。
ナユミ
放射性同位体って厄介なものなのね…
カヤ
そうだな。崩壊に長い時間を要するという放射性同位体の性質は汚染物質という観点で見ると厄介なものだ。けど、この性質を上手に使った技術もある。
ナユミ
そんな技術があるの?
カヤ
ああ。それは放射性同位体による年代測定だ。
放射性同位体による年代測定
ナユミ
年代測定って遺跡とか恐竜とか?
カヤ
ああ、まさに遺跡や恐竜といったものだな。
ナユミ
どうやって測定するの?
カヤ
測定する対象によって様々な方法があるが、恐竜や遺跡の年代測定には放射性炭素 \( ^{14} \rm C \) が用いられることが多いな。
\[ 放射性炭素 ^{14} \rm C を用いた年代測定 \]
植物や動物といった生物の体には炭素 \( \rm C \) が含まれており、生物が生きている間はその体の中にある放射性炭素 \( ^{14} \rm C \) と放射能を持たない通常の炭素 \( ^{12} \rm C \) との割合がほぼ一定に保たれている。
これは、生物が光合成や呼吸、摂食や排泄を通じて外界と炭素のやり取りをしているからであるが、生物が絶命すると外界との炭素のやり取りが無くなるため、生物体内の放射性炭素 \( ^{14} \rm C \) の崩壊に伴い、放射性炭素 \( ^{14} \rm C \) と放射能を持たない通常の炭素 \( ^{12} \rm C \) との割合が変化する。
この炭素の割合を測定することで、生物が絶命してから現在までに経過した年代を測定することができる。
この年代測定法を開発した化学者ウィラード・リビーはこの方法を開発した功績から1960年にノーベル化学賞を受賞しています。
ナユミ
画期的なアイデアだったのね。放射性物質も役に立つことがちゃんとあるのね。
カヤ
そうだな。放射性物質に限らず、あらゆる化学物質は使い方によって良いことも悪いことも引き起こすことを忘れてはいけないだろうな。
参考:
[1] 影響は?安全性は?福島第一原発の処理水 海洋放出【Q&A】、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230704/k10014117891000.html、2023年8月7日閲覧
[2] 原子力百科事典 ATOMICA、https://atomica.jaea.go.jp/index.html、2023年8月7日閲覧
[3] 鵜沼英郎・尾形健明、理工系基礎レクチャー 無機化学、化学同人、2007年4月1日発行
[4] Wikipedia 放射能の比較、https://ja.wikipedia.org/wiki/放射能の比較、2023年8月8日閲覧
[5] 環境省HP 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版、 HTML形式) 第2章 放射線による被ばく 2.2 原子力災害、https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-02-04.html、2023年8月8日閲覧
[6] 野口邦和、放射性物質による生物及び人体への影響とその対応、安全工学 Vol.50 No.6、2011
[7] 環境省HP 放射性物質の常時監視 | 水環境における放射性物質の常時監視に関する評価検討会、https://www.env.go.jp/air/rmcm/conf_cm2.html、2023年8月9日閲覧
[8] Wikipedia 放射性炭素年代測定、https://ja.wikipedia.org/wiki/放射性炭素年代測定、2023年8月9日閲覧
[9] 原子力資料情報室 原発きほん知識 放射能ミニ知識 炭素-14 (14C) 、https://cnic.jp、2023年8月9日閲覧
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