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 目次

  ・「確率」という言葉

  ・確率の公理




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カヤ

今回は確率について考えてみよう。

  「確率」という言葉


ナユミ

確率って宝くじの当選確率とか?

カヤ

ああ、そうだな。「確率」は日常的な文章の中にも浸透している言葉だ。そこで、まずは具体的な例から「確率」という言葉の持つ性質について探っていくこととしよう。

 宝くじの当選確率は全体のくじの本数と当たりくじの本数がわかれば計算できます。 もう少しきちんと言えば、全体の本数と当たりの本数の比が当選確率になっています。

 天気予報の降水確率は宝くじのようには簡単に計算できません。 ですが、降水確率の計算方法はわからなくても、降水確率が高いときは傘を持って出かけるように、降水確率を判断基準に使うことはできます。 裏を返せば、確率というものを考えるに当たって、その計算方法はわからなくても別に構わない部分があるということです。
 計算方法がわからなくても構わないとはいえ、確率の数値はある程度決まっていることもわかります。 例えば、もし天気予報で「降水確率200%」という文を見たらおかしいと大抵の人は気づくはずです。 降水確率は0%から100%に納まっていないとおかしいということから、確率の数値は何でもいいというわけではないと言えます。

 最後にもう一つ、「たぶん」、「おそらく」、「ほぼ」、「めったに」 といった、物事が起こる頻度を形容する言葉は色々とあります。 そういった言葉を使うときに、多くの人は 過去の経験から類推して物事が起こる頻度を形容していると思います。 ですが、具体的に「ある物事が何かをしているときの何回中の何番目と何番目に起こった」というようなことを突然聞かれて答えられる人もそう居ないと思います。 つまり、人は無意識のうちに物事が起こる頻度を過去の経験をまとめてならして求めているということになり、これも一つの確率的な考え方と言えます。

カヤ

こんな感じで、確率という言葉や考え方は日常的には様々な使い方をされている。一方、数学において確率は「確率の公理」のもと厳密に定義されているんだ。




  確率の公理


ナユミ

公理って何?

カヤ

そうだな、命題と公理という言葉を紹介しておこうか。
命題:真偽が定まっている文や式のこと。議論の中で重要な命題は定理(ていり)とも呼ばれる。

公理:証明なしに述べられる命題のことで、これから他の命題を証明するためのもの。

 ケーキを作るために小麦粉や砂糖を用意するように、数学において何かを議論するにはまずいくつかの公理を用意し、そこから様々な命題を証明していくというのが現代数学流のやり方です。

ナユミ

ふむ、じゃあ確率の公理っていうのは、確率を考える上での出発地点ってことね。

カヤ

そういうことだな。確率の公理は1933年にロシアの数学者 A.N.Kolmogorov によって導入された。
\[ 確率の公理\]  \( \Omega \) は根元事象と呼ばれる要素の集合であり、これを標本空間と呼ぶ。事象空間と呼ばれる \( \mathfrak F \) は \( \Omega \) の部分集合からなる集合族とし、その要素を事象と呼ぶ。次の[A1]~[A6]の「確率の公理」を満たす組 \( \left( \Omega, \mathfrak F \rm , \it P \right) \) を確率空間と呼ぶ。

[A1] \( \mathfrak F \) の2つの要素の和、差、共通部分はいずれも \( \mathfrak F \) に含まれる。
[A2] \( \Omega \in \mathfrak F \)
[A3] \( \mathfrak F \) の任意の要素 \( A \) に対して、「事象 \( \boldsymbol A \) の確率」と呼ばれる非負の実数 \( P \left( A \right) \) が対応付けられる。
[A4] \( P \left( \Omega \right) = 1 \)
[A5] \( \mathfrak F \) の2つの要素 \( A \) と \( B \) が交わらないならば、次式が成り立つ。 \[ P \left( A \cup B \right) = P \left( A \right) + P \left( B \right) \] このとき \( A \) と \( B \) は互いに排反であるという。
[A6] \( \mathfrak F \) の任意の減少列 \[ A_1 \supset A_2 \supset \cdots \supset A_n \supset \cdots \] が、 \[ \bigcap _{i=1} ^{\infty} A_i = \varnothing \] を満たすならば、 \[ \lim _{i \to \infty} P \left( A_i \right) = 0 \] が成り立つ。

 \( \mathfrak F \) はフラクトゥールと呼ばれる文字のFにあたるものです。 フラクトゥールは第二次世界大戦頃までドイツで印刷用に使用されていた文字で、多数の記号を必要とする数学では今でも使われています。

 次の6つの命題を公理から証明しておきます。

 確率の公理より、以下の6つの命題が成り立つ。
[1] \( A \subset B \) ならば \( P \left( A \right) \leq P \left( B \right) \)
[2] \( P \left( \varnothing \right) = 0 \)
[3] \( P \left( A^c \right) = P \left( \Omega - A \right) = 1 - P \left( A \right) \)
ここで、\( A^c \) を余事象と呼ぶ。
[4] \( 0 \leq P \left( A \right) \leq 1 \)
[5] \( P \left( A \cup B \right) = P \left( A \right) + P \left( B \right) - P \left( A \cap B \right) \)
[6] \( \mathfrak F \) の任意の列 \[ A_1 , \ A_2, \cdots , \ A_n , \cdots\] がいずれも互いに排反であるとき、 \[ P \left( \bigcup _{i=1} ^{\infty} A_i \right) = \sum _{i=1} ^{\infty} P \left( A_i \right)\]

ナユミ

たくさんあるわね。

カヤ

まあ、1つ1つの証明はそこまで難しくはない。上から順に証明していこう。まずは、[1] と [2] から。
[1] の証明
 \( A,B \in \mathfrak F \) 、\( A \subset B \) とする。\( B = A \cup \left( B - A \right) \) だから、公理 A3 および A5 より、 \[ P \left( B \right) = P \left( A \right) + P \left( B - A \right) \geq P \left( A \right) \] よって、[1] が成り立つ。

[2] の証明
 \( A \in \mathfrak F \) とする。\( A = A \cup \varnothing \) だから、公理 A5 より、 \[ \begin{align} P \left( A \right) &= P \left( A \right) + P \left( \varnothing \right) \\\\ 0 &= P \left( \varnothing \right) \end{align}\] よって、[2] が成り立つ。

ナユミ

[1] と [2] はどっちも A5 が肝心なのね。

カヤ

そうだな。[1] の証明については、事象の確率が常に非負の実数値を取るという A3 も使っている。次に [3] の証明だが、これもほぼ同じだ。
[3] の証明
 \( A \in \mathfrak F \) とする。\( \Omega = A \cup \left( \Omega - A \right) \) だから、公理 A4 、A5 より、 \[ \begin{align} P \left( \Omega \right) &= P \left( A \right) + P \left( \Omega - A \right) = 1 \\\\ P \left( \Omega - A \right) &= 1 - P \left( A \right) \end{align}\] よって、[3] が成り立つ。

ナユミ

A4 の標本空間の確率は1という性質を使ったのね。それと、\( A^c \) に余事象って名前がついてるけど、これって補集合の記号と同じよね?

カヤ

そうだな。\( \Omega \) を全体集合とすれば、\( A^c = \Omega - A \) は \( A \) の補集合になるから、同じ記号を使っている。

ナユミ

余りの事象だから、余事象ってことね。

カヤ

そういうことだな。次に、[4] は [1] と A3 および A4 を使うと次のように導ける。




[4] の証明
 \( A \in \mathfrak F \) とする。\( A \subset \Omega \) だから、公理 A3 、A4 、[1] より、 \[ 0 \leq P \left( A \right) \leq P \left( \Omega \right) = 1\] よって、[4] が成り立つ。

ナユミ

[4] は確率は0から1、つまり0%から100%ってことね。

カヤ

そういうことだな。[5] も A5 から導ける。
[5] の証明
 \( A,B \in \mathfrak F \) とする。\( A \cup B = A \cup \left( B - A \right) \) だから、公理 A5 より、 \[ P \left( A \cup B \right) = P \left( A \right) + P \left( B - A \right) \ \ \ldots (1) \] また、\( B = \left( A \cap B \right) \cup \left( B - A \right) \) だから、公理 A5 より、 \[ P \left( B \right) = P \left( A \cap B \right) + P \left( B - A \right) \ \ \ldots (2) \] \( (1) - (2) \) より、 \[ \begin{align} P \left( A \cup B \right) - P \left( B \right) &= P \left( A \right) - P \left( A \cap B \right) \\\\ P \left( A \cup B \right) &= P \left( A \right) + P \left( B \right) - P \left( A \cap B \right) \end{align}\] よって、[5] が成り立つ。

ナユミ

[5] は前にやった有限集合の濃度の公式と同じ形ね。

カヤ

2回カウントしている分を1個引いておくということだな。最後に、[6] を証明しよう。
[6] の証明
 \( \mathfrak F \) の列 \[ A_1 , \ A_2, \cdots , \ A_n , \cdots\] がいずれも互いに排反であるとする。 \[ R_n = \bigcup _{i=n+1} ^{\infty} A_i \] とすると、\( \left\{ R_n \right\} \) は \( \mathfrak F \) の減少列であり、 \[ \bigcap _{i=1} ^{\infty} R_n = \varnothing \] を満たすから、A6 より、 \[ \lim _{n \to \infty} P \left( R_n \right) = 0 \] また、\( A_{n+1} \subset R_n \) だから、[1] と A3 より、 \[ \begin{align} 0 \leq P \left( A_{n+1} \right) & \leq P \left( R_n \right) \\\\ 0 \leq \lim _{n \to \infty} P \left( A_{n+1} \right) & \leq \lim _{n \to \infty} P \left( R_n \right) = 0 \end{align}\] よって、 \[ \lim _{n \to \infty} P \left( A_{n+1} \right) = 0\] 一方、A5 より、 \[ P \left( \bigcup _{i=1} ^{n+1} A_i \right) = \sum _{i=1} ^n P \left( A_i \right) + P \left( A_{n+1} \right) \] これの両辺について \( n \to \infty \) の極限をとれば、 \[ P \left( \bigcup _{i=1} ^{\infty} A_i \right) = \sum _{i=1} ^{\infty} P \left( A_i \right) \] よって、[6] が成り立つ。

ナユミ

ほう、\( A_i \) の和集合を使って \( \mathfrak F \) の減少列を作るっていうのが上手だなって感じね。

カヤ

そうだな。うまく A6 の公理を引き出している。

ナユミ

これで [1] から [6] まで全部証明できたわね。

カヤ

そうだな、お疲れ様。今回はここまでにしよう。



参考:
[1] 宮西正宜 他24名、高等学校 数学A 改訂版、新興出版社啓林館、2008年12月10日発行
[2] Wikipedia 確率の公理、https://ja.wikipedia.org/wiki/確率の公理、2023年9月24日閲覧
[3] A.N.Kolmogorov 著、Nathan Morrison 英訳、FOUNDATIONS OF THE THEORY OF PROBABILITY、CHELSEA PUBLISHING COMPANY NEW YORK、1950年
[4] Wikipedia フラクトゥール、https://ja.wikipedia.org/wiki/フラクトゥール、2023年9月24日閲覧